ドクターインタビューdoctor interview
親身の診療と体にやさしい手術で
全国から患者さんが訪れる
恵生会病院 院長 婦人科内視鏡手術センター センター長子安 保喜
このたび恵生会病院に、婦人科疾患に対してきずが小さく身体への負担が少ない内視鏡を用いた手術を専門に行う婦人科内視鏡手術センターが新設されました。1993年(平成5年)から内視鏡手術を導入し、日本の婦人科内視鏡手術の草分け的存在で、現在まで10,000件以上の内視鏡手術の実績をもつ子安保喜センター長にお話を伺いました。
婦人科の内視鏡手術とは
どのようなものですか?
婦人科で使用する内視鏡は腹腔鏡・子宮鏡・卵管鏡がありますが、私たちが主に使用するのが「腹腔鏡」です。おなかに直径0.5~1センチほどの穴を2~4ヵ所開けて(腹腔鏡補助下手術ではうち1ヵ所が3~6センチ)、そこからカメラと手術器具を挿入し、テレビモニターを見ながら行う手術です。
きずが小さいため、痛みも少なく、元の生活に早く戻れるなど、開腹手術に比べて負担の少ないことが特徴です。また女性にとって美容的に優れていることも大きなメリットです。
どこの病院でも内視鏡手術は受けられるのですか?
婦人科の内視鏡手術は約30年前からスタートしました。当初はなかなかうまくいかなかったり、トラブルを起こしたりして撤退した病院もありましたが、最近ではかなり底辺が広がってきました。ただ、病院や術者によってまだ技術レベルにばらつきがあるのが実情です。内視鏡手術は、患者さんの負担は少ないのですが、その反面、開腹手術では起きない合併症が起こる可能性もあるため、熟練した技術が求められます。
全国からこちらを訪れる患者さんもおられるとお聞きしていますが。
いろいろな病院を回られても希望通りの治療が受けられず、悩まれて、最終的に当院へたどり着いたという方もいらっしゃいます。
当院には、日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医が私を含め3名おります。また術式も、多くのバリエーションを駆使して、患者さんにとって最もご負担の少ない手術方法を選択しています。
恵生会病院での腹腔鏡下手術の対象疾患は?
現在のところ、当院での腹腔鏡下手術は子宮筋腫・卵巣嚢腫・子宮内膜症などの良性疾患に行っています。
内視鏡手術外来で心がけておられることは?
非常に悩まれて当院を受診されている方が多いため、ゆっくり時間をかけてお悩みをしっかり受け止めて、できるだけ希望通りの治療を受けて頂けるようご説明しています。
- 子宮筋腫に悩む方へ腹腔鏡による手術で助けになりたい! -
子宮筋腫の手術を行う上で大切にされている事を教えて頂けますか?
私たちが最も大切にしているのは、本当に手術が必要なのかどうかをしっかり判断する事です。子宮筋腫は3~4人に1人が持っておられる病気で、しかも良性であることが多く、症状が無ければ外来でフォローしていくことも可能です。外来で大きさや症状をみていき、一定のラインに達した時に手術という選択をしています。子宮筋腫の手術は本当に必要な人だけに行いたい、それが私たちの考え方です。
どのような方が受診されていますか?
他院で大きな筋腫があると診断されて、子宮を取るしかない、しかも開腹手術で大きな傷も残る、と言われ精神的ショックを受けた方もいらっしゃいます。インターネットで調べられて、腹腔鏡の手術をやっている施設へ行かれたものの、そこでも筋腫が大きすぎたり個数が多すぎて腹腔鏡手術ができないと言われ、悩まれて、最終的に当院へたどり着いたという方もおられます。
子宮筋腫手術の方法を教えて頂けますか?
手術を行うべきと診断した場合は、まず子宮をすべて取るのか(子宮摘出術)、子宮を残して筋腫のみを摘出するのか(子宮筋腫核出術)を判断します。その後、それぞれの手術は開腹しないといけないのか、腹腔鏡手術が可能か、もしくは腹腔鏡を用いつつも小さく切開を加える腹腔鏡補助下手術で行うかを検討します。
腹腔鏡を用いた子宮筋腫核出術について教えてください。
腹腔鏡下子宮筋腫核出術では、まず筋腫を子宮からくり抜く“核出”、次いで核出した後の子宮の傷を縫合する“修復”、最後に核出した筋腫を体外に取り出す“回収”という3つの独立した工程をすべて腹腔鏡下に行う必要があります。開腹手術ではすべての工程を手で行えますのでこれらの操作は比較的容易ですが、腹腔鏡手術では手が使えず、鉗子(カンシ)とよばれる細い器具で行うためその1つ1つの操作に非常に時間がかかります。
また、筋腫の大きさや数、筋腫のできている部位、癒着の状態などによっては操作そのものが難しくなります。つまり手技的に非常に難易度の高い手術といえます。そのため腹腔鏡のみでは手術が難しい症例も出てきます。そのような場合は、開腹手術を勧められるケースがほとんどです。つまり、一般的な子宮筋腫の手術は、腹腔鏡で0.5~1cm程度の傷で済むか開腹手術で15cmの傷になるかというどちらかの選択になってしまいます。
当院では、本来開腹手術が必要とされる難易度の高い症例に対しては、腹腔鏡を用いながら恥骨上に横向きに小切開を加え、一部の操作をハンドアシストで行う腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術を行っています。それにより開腹手術で15cmの皮膚切開が必要な手術を腹腔鏡と3~5cmの小切開の組み合わせで行うことが可能となり、世界で一番小さい傷を目標にして手術を行っています。
また、恥骨上に横向きに小切開を加える理由としては、子宮のあらゆる部位にできた筋腫にも対応できる事、毛の生え際を横に切りますので最も美容的に優れている事、筋腫核出後に妊娠された場合分娩は帝王切開が必要になることが多いんですが、この傷を延長することにより帝王切開が可能で新たな傷が増えない事などが挙げられます。
腹腔鏡で小さい筋腫まで取り除くことは難しいと伺いましたが。
私たちは、筋腫の取り残しによる早期の症状の再発をできるだけ防ぎたいと考えています。そのため可能な限り小さい筋腫まで見つけて核出するよう心がけています。特に子宮の深い位置に存在する筋腫は小さいものでも過多月経などの症状を出すことも多く、また不妊原因にもなり得ます。
腹腔鏡のみの手術ですと、鉗子で筋腫を探すことになり、小さな深い筋腫を見つけて除去することは難しくなります。
そこで、当院ではあえて小切開を加えることで筋腫を直接手で触れることにより、深い小さな筋腫を特定して除去しています。
もちろん、多発傾向の方は再発しやすく、手術の時点ですべての筋腫を除去しても新たに筋腫ができてくる再発の可能性は残ります。それでも、もし再発するとしても症状が出るのを少しでも先延ばししたいと思い取り組んでいます。
術前のホルモン療法についてお聞かせください。
子宮筋腫は女性ホルモンのなかのエストロゲン(卵胞ホルモン)によって大きくなります。逆にエストロゲンを下げるホルモン治療をすれば筋腫を一時的に小さくすることが可能となり手術が行いやすくなります。また子宮の血流量も低下し、手術時の出血を抑える効果もあります。最近では皮下注射とともに内服できるホルモン剤も発売されました。
逆に問題点としては、長期にわたり使用すると更年期症状や骨粗しょう症などの副作用が出る事、大きな筋腫が小さくなるのは良いんですが、小さい筋腫が一時的に消えてしまい取り残しの原因になる可能性がある事などが挙げられます。
そのため、当院では子宮摘出や大きな単発の筋腫核出ではホルモン療法を行いますが、多発性筋腫の核出ではあえてホルモン療法は積極的には行っておりません。
筋腫核出手術を選択され子宮を残したいという方は妊娠を希望されるからでしょうか?
当院では原則として患者さんのご希望に沿って術式を選択しています。妊娠を希望される方はもちろんですし、女性としてどうしても子宮を残したいと希望される方には可能な限り子宮を温存しています。
次に腹腔鏡を用いた子宮摘出術についてお聞きしたいと思います。まず、子宮摘出術のメリット・デメリットについて教えてください。
子宮摘出術のメリットとしては、手術が終われば月経は無くなりますので、月経に伴うトラブルが一切無くなる事、筋腫の再発が無く、また子宮癌発生のリスクも無くなる事、また卵巣を温存すれば子宮を摘出してもホルモン的には全く問題が無い事などが挙げられます。
逆にデメリットとしては、残念ながら妊娠は不可能となる事、それに伴い術後しばらくの間、子宮を失ったという喪失感をおっしゃる方もおられます。
ただご自分で子宮摘出を選択して頂いたかぎり、ほとんどの方はその後受け入れて頂けるようです。また子宮は骨盤底の臓器を支えるという働きも持っているため、子宮摘出後、膀胱や直腸が膣内に落ちてくる事があります(骨盤臓器脱)。我々はこの予防策として、手術の最後に子宮の後ろの左右の靭帯を中央で括り付ける処置を行う事で良好な結果を得ています。
子宮摘出にはいくつかの方法があるとお聞きしたのですが
具体的な方法について教えてください。
子宮筋腫や子宮腺筋症などの良性の子宮の病気に対する子宮摘出術は、従来は大きくお腹を切開する腹式子宮摘出術と、全くお腹に傷が残らない膣から子宮を摘出する膣式子宮摘出術が行われてきました。
膣式手術は患者さんにとっては最も負担の少ない手術なんですが、手術前や手術が終わった後のお腹の中の状態が全く分からない、言わば子宮を取るだけの手術と言えます。また狭い膣を通して子宮を支持している靭帯や血管の処理をするため、膀胱や尿管、腸管といった周りの臓器を傷つけるリスクもあり、適応も比較的小さな子宮や経産婦で手術経験の無い方に限られていました。
ここに新たに腹腔鏡を用いた子宮摘出術が加わりました。
当初は開腹手術の持つ腹腔内の観察ができるという利点と腟式手術の持つ手術の負担が少ないという両者の特徴を兼ね備えた新しい概念の手術方法としてスタートしました。しかし最近では腹腔鏡での手術手技が確立され、また術者の技量も飛躍的に向上したことで、従来は開腹手術を余儀なくされていた方々に対してもより負担が少なく安全に子宮摘出術を受けて頂く事が可能となりました。
腹腔鏡を用いた子宮摘出術ではどのような症例が難しいのでしょうか?
まず子宮の大きさです。子宮全体の大きさが骨盤腔を超えてきますと腹腔鏡で視野が十分取れなくなったり、また操作するスペースも限られてきます。次に筋腫のできる部位も重要です。子宮の入り口近いところにできたり(頸部筋腫)、靭帯の中にできるタイプの筋腫は手術時の出血が多くなったり臓器の損傷などの合併症のリスクが高まります。また子宮内膜症を合併されている方や過去に手術を経験されている方などは、お腹の中に癒着をおこしていることも多く、腹腔鏡での手術が困難となることもあります。
困難な症例の手術を行うには、専門的な技術と豊富な手術経験が必要です。たくさんの手技を持ち、多くの手術を行った経験があればこそできる手術があります。手術中に瞬時の判断が求められることも多く、豊富な手技の引き出しが必要になるのです。
腹腔鏡下子宮摘出術の限界はありますか?
術前のホルモン治療を行っても子宮の大きさがおへその高さを超えるような巨大子宮や、大きな頸部筋腫・靭帯内筋腫、また大きな子宮の後ろに高度な癒着がある症例などは腹腔鏡下手術の限界となってきます。
ただし腹腔鏡下手術の限界だからと言っていきなり開腹手術に切り替えるのではなく、子宮筋腫核出術と同様に恥骨上に小切開を加え、見えないところや操作できないところを手の感覚を生かして手術する腹腔鏡補助下子宮摘出術を行う事によって、ご負担の少ない手術を提供する事が可能となります。
例えばおへその高さを超えるような巨大子宮であっても、可能な限り腹腔鏡下に血流を遮断した上で、まず巨大筋腫を小切開創から手を使ってくり抜き、その後小さくなった子宮を摘出するなど工夫を行います。ちなみに私たちは大きさだけでは腹腔鏡補助下子宮摘出術の限界は設けていません。
子宮筋腫以外の婦人科系の病気についても教えて頂けますか?
卵巣は、子宮の左右に1つずつある親指大の臓器です。卵巣のう腫は卵巣にできた袋状の腫瘍に液体などがたまる病気で、自覚症状が出にくく、健診で偶然見つかることも多いです。捻転や破裂を起こすと激痛をきたし緊急手術が必要となる恐れもあります。卵巣のう腫が5~6cmを超えてくると捻転の可能性だけでなく、悪性かどうかの確認も必要となるため手術を考慮します。若い女性に多いため妊娠を考えた治療が必要です。妊娠希望の方は、一般的にのう腫のみを摘出し、正常な部分を温存する卵巣のう腫摘出術を行います。卵巣のダメージが少なく、美容的にも優れ、術後癒着が少ないと言った理由で、最近ではほとんどの卵巣のう腫摘出術は腹腔鏡下に行っています。
また閉経後の方や捻転により卵巣が壊死を起こしている場合、悪性の可能性のある症例では腫れている卵巣そのものを摘出します。
子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が、卵巣や卵管・骨盤内など子宮以外に発生する病気です。子宮内膜症は近年増加しています。エストロゲンの曝露期間が長いとなりやすいと言われており、晩婚化や少子化で月経の回数が以前より増えているのが原因と考えられています。
子宮内膜症が卵巣に波及し、のう胞を形成したものがチョコレートのう腫です。小さいうちはホルモン療法を行う事も多いですが、大きくなってくると破裂の危険性、悪性の否定、悪性転化の予防目的で手術が必要となります。
妊娠を希望されるケースでは腹腔鏡下のう腫摘出術を行います。チョコレートのう腫の手術の一番の問題点は周囲の臓器と癒着している可能性が高いことです。腹腔鏡手術を行うには難易度が高く、また卵巣の血流を考えた修復の工夫で、卵巣の機能の温存に気をつける必要があります。
最後に子宮筋腫や卵巣のう腫で悩まれている方にメッセージを頂けますか?
女性の病気は相談する相手も見つからず、一人で悩まれることも多いと思います。何かいつもと違う症状を感じたら早めに受診して頂きたいです。
そこで子宮筋腫や卵巣のう腫と診断されても、ご自身の希望する治療を叶えてくれる病院は見つかると思います。
友達よりも専門医に相談し、あきらめずに前向きでいらして頂ければと思います。当院でよろしければいつでもご相談においで下さい。
子安 保喜こやす やすき
資格
日本産科婦人科学会専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)
日本内視鏡外科学会技術認定医
経歴
兵庫医科大学卒業
宝塚市立病院産婦人科 主任医長
大阪市立大学産婦人科 非常勤講師
兵庫医大産婦人科 非常勤講師
四谷メディカルキューブ 副院長 ウィメンズセンター長
所属学会
日本産科婦人科学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本内視鏡外科学会
日本産婦人科手術学会
日本小切開・鏡視外科学会
講演・発表(抜粋)
雑誌・書籍(抜粋)
TV出演(抜粋)